この世に起こる事件・事故。その全てが「神」の差し金によって起きているのではないか。
この絵は、1816年モーリタニア沖で座礁し、147人ほどの人が筏で漂流するフランス巡洋艦メデュース号の人々の事故を題材にしている。早世の画家ジェリコーの27歳の時の作品である。食糧も無く、他の船に発見されるまで13日間筏の上で過ごし、苦しい生活をしていたの15人の人々が、遠くに船を発見した瞬間を絵に描いている。
テオドール・ジェリコー 「メデューズ号の筏」 1818~19年 ルーブル美術館
491cm×716cm
大きい有名な絵だが高画質の物は見つからなかった。画面はほとんど黄土色一色と言っても良いほど無彩色に近く、しかも暗い。陰になった部分を画像処理ソフトで明るくしようとしても形が少しも見えて来ない。Wikipediaで2073×1403ピクセルの画像があったがそれ以上の物が無い(部分図にもう少し高画質な物もあったのでそれを合わせて使った)。
明るくしてみる。ルーブルの大広間で幅7メートルのこの絵をベンチに腰掛けて見られるようになっているが、真ん中のテントの中の暗い部分は見えるのだろうか。
筏が菱形に描かれ、人物がピラミッド型に構成され、最上部の服を脱いで振っている黒人に目が行く。その下には、手を上げている人、倒れたままの人、あきらめの表情の人等、様々な人間模様が劇的に描かれている。
水平線のかなたに点のように小さく見えるのが筏を発見する事になる船。
手を上げているのはまだ元気のある人。手も上げられず、もう起き上がれないほど衰弱している人もいる。
布でテントが組まれており、その中の暗い部分が絵の中心部に当たる。テントの中にいるのは皆に大事にされるような人物なのだろうか。
頭を抱えた男が見える。口に何かを咥えているのか。既に頭が狂ってしまったのか。
その奥にもう一人他人らしき影がある。誰だろう。まるで死神のようだ。
画面中央手前部分。顔や身体が全て逆光で黒くなっている男がいる。
その手前にうつ伏せた男。左肩に大きな傷口が見える。右肩は腕がもがれたように無くなっている。逆光の男はこいつを喰っているのか。
13日も食糧も水も無しに生き延びるには、死者の肉を喰うしか無いのかもしれない。
うつ伏せの男の右腕は肩から無くなっているし、左肩は肉がえぐり取られている。
下半身は既に存在しないのかもしれない。それとも下や右後ろにある足が逆光の男の物では無く、この男の足である可能性もある。
逆光の男の表情。他の船に発見され救助されたらこの人肉食がばれてしまう気まずさが表れていると思う。
この男の手先はどうなっているのか。右手で足を、左手で手を持っているのではないか。左肩に見える黒い物はうつ伏せの男の腕か。
肉は火も通さず生で喰らうしか無いのだろう。
画面左端の男。腹から下が無い。頭の後ろとか首に巻き付いているぐちゃぐちゃした物は内臓か。いずれにしてもこれは生存者たちの為の食用肉。
最終的に助かったのは15人とされるが、ここにはそれ以上の人物が描かれている。15人以外は死体だろう。右端で水に浸かった死体には首が無い。その他食糧としての死体が筏に乗せられている。
中央のテントの中の頭を抱えた人物は、自分たちの共食いが露見する事を恐れているとしか思えない。
そしてこれらの人々の悲惨な運命を現出させているのが、画面全体に大きく描かれた「神」と言う存在。絵を遠くで見た方が、またはネットでサムネイルのような小さい絵で見た方が発見しやすい。
この世の人間の運命はこの「神」の導きに拠っているらしい。人間同士が共食いをしようと何ら動じない。元々似たような事を人間にやらせているのだから。有機物で出来た生物が有機物を摂取するのは当たり前で、家畜の肉を何の疑問も無く人間は喰っている。「豚」はどうやら猪と人間の遺伝子を組み合わせた生き物だと思っている。「豚」を喰う事は人間の共食いと言えるのだろう。人間も喰われる存在である事を認める必要がある。