僕が美術に興味を持ち始め、その道に進むきっかけになったのが、鎌倉近代美術館で催されていた「ペーテル・ブリューゲル版画展」を見た事だった。強烈な印象だった。その後何だか分からないままその世界に没入した。
しかし今振り返ってみると、それらの絵の中には何とも恐ろしい真実が隠されているのかを知った。この生きにくい世界の支配者の姿がそこにあった。見るからに半透明に描かれているのは、違う次元に存在するからだろう。
ピーテル・ブリューゲル 「大きい魚は小さい魚を食う」 1557年 メトロポリタン美術館
単にことわざを絵にしたのでは無い。
元絵をぼかしてみると分かり易いかもしれない。絵全体に地面にのたくる巨大な蛇が描かれている。その口の中に入っているのは、小さい魚のように見える小さな人間。
普通絵の中のこまごまとした事象に惑わされて見えないが、目を大きく開いて巨視的に大雑把に全体を捉えるようにして見ると見えて来る。眼を半目にしてぼやかせて見るのも良い。また上図のように画像ソフトでぼかすのも有りだ。
こいつがこの世の支配者の姿。小さな人間はその食糧として描かれる。
「子供の遊戯」 1560年 ウイーン美術史美術館
ネーデルランド地方の子供たちの遊びを集めて描いただけでは無い。
画面の右側、イラストのような爬虫類の横顔が何となく見えて来ないか。物や人の輪郭を繋げる事で、半透明のこの顔が見えて来る。そこに実体があるわけでもない。何となく空気のゆがみのような物が見えるではないか。
異次元の生命体がこの三次元世界に姿を表し、人間と言う有機物をその口の中に入れて栄養分とする。そんな瞬間が描かれているらしい。
「神」はどこにでもいると言われる事とか、幽霊・妖怪などの言い伝え・伝説の類は、この異次元の生命体がいる事から発生したのではないか。龍神伝説しかり、ドラゴン伝説しかりである。
「雪中の狩人」 1565年 ウイーン美術史美術館
狩人のチームが狐一匹だけの成果で寂しく家路に付く絵・・・・なんかじゃ無い。
空から巨大な爬虫類が降りて来る。それが画面いっぱいに描かれている。雪の丘はうつ伏せになった人間。その股から生まれ出る子供たち。生まれたばかりの子供を口の中に入れる巨大生物。地上の家畜を回収しに来た「神」の図である。(目の位置等僕とは違って見える人もいるかもしれない)
「神」の姿は直接は描かれない。地上にある事物を用いて半透明に描かれる。
「婚礼の踊り」 1566年 デトロイト美術館
農民の、ちょっと下品な踊りをそのまま描いた、一種の風俗画・・・・と言うだけでは無い。群衆の輪郭を繋げると何か見えて来ないか。
僕にはこんな風に見えた。農民たちをその胴体で締めて囲いながら摂取する「神」の姿。眼を薄目にして繋がった輪郭を見る。すると何やら恐ろし気な怪物が人間を襲う形が見えて来ると思う。全く別の見え方がする人もいるだろう。胴体の行く方向がこうではないと言う人もいるだろう。しかしどちらにしても巨大な蛇の食事風景である事には変わりはないと思う。
「叛逆天使の墜落」 1562年 ベルギー王室美術館
天使の一人が反逆し、醜い悪魔が大量に発生、それをガブリエルはじめ天使が退治している図・・・・だと思うか。
画面中央、赤い甲冑の天使ガブリエルは巨大な蛇(イラストでは青の輪郭)の頭に乗っている。この天使こそ「蛇神」の手先である。地上で蠢いている異形の生物が人間。悪魔=神によって醜く変形させられている。哀れなのは身体を不自由にされ、知能を衰えさせられた人間たち。全ての事を真逆に教えられている。