フランスのロココ時代の巨匠ブーシェは、王宮で暮らす貴族たちの富貴な暮らしぶりを見せる、僕にはあまり好きになれない画家だが、ギリシア神話を題材にしたこんな絵を描いている。
フランソワ・ブーシェ 「ヴィーナスの勝利」 1740年 スウェーデン国立美術館(ストックホルム)
130cm×162センチと、思ったよりも小さな作品である。登場人物が多く、大構成となっている。ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」と同じテーマ。ヴィーナス(ギリシャ神話ではアフロディテ)が海の泡の中から誕生する。最初キュテラ島に立ち寄り、次にキプロス島に上陸する。絵の右側にある岩場がキュテラ島だと言う。
ボッティチェリのそれは、浜に到着した瞬間を貝の上に乗って表されたが、この絵では、ヴィーナスがニンフやイルカ、トリトン(ほら貝を吹いている)たちに持ち上げられており、空にキューピッドが舞い遊んで喜びを表している。空に飛んだピンクの布はヴィーナスの日よけで、キューピッドが戯れてこんな形になっているらしい(Wikipedia)。
画面中央の、ひときわ肌の白い女性がヴィーナスであるらしい。人間の愛と情熱を支配したと言うだけあって肌が魅力的だ。横にいるニンフが真珠のネックレスを見せているがそれに目を向けているのか。誕生したばかりのはずなのに、髪に飾り物を付けている。
周りはニンフ(精霊)たちが囲っている。皆魅力的な肌、尻をしている。
左側のニンフの後ろにもう一人のニンフがいて(上図左上)、その股の間に白い鳩(性行為を意味している)を置く。
ヴィーナスの顔。拡大するとその表情が独特だ。愛に満ちた顔、ではなく、冷酷な目だ。ちょうど聖母子像で見るマリアの目のように、幼児に向ける目が冷たく、獲物を見る目のようだ。画質がこれ以上良くならないので良く見えないが、唇が血のように赤く、何かを咥えている様であり、目が向いているのはニンフの持つ真珠ではなく、キューピッドの方ではないか。
この二人のニンフの口、少しおかしくないか。白い牙のような物が見え、何かを喰っているようにも見える。
キューピッドと言えば可愛らしい幼児で表されると思うのだが、これはどうだ。皆険しい顔をしている。身体に損傷を与えられたかのような、苦し気な表情である。
鳩を股間に当てたニンフ。左手に何か持っている。拡大して良く見ると、身体を丸めた小さな人間ではないか。ニンフも巨人族の女神だから、小さな人間を捕まえて喰っている図かもしれない。そう思うとこのニンフの口から頬、のど、胸に掛けて血が付いているようにも見える。
巨人族の神々は人間の幼児を好んで食するらしい。空中に飛び回るように見えるキューピッドは、上から降りて来た目に見えない「神」の口に咥えられて飛んでいるように見えているだけのようだ。日よけの布も人間の形で組み立てられているから、これも「神」の食糧であろう。
異次元の存在である「神々」が空中に集まって来ている。折り重なってたくさんいる。ヴィーナスは「神」の鼻先に乗っているが、その他の人型の生命は全て「神」の口の中に呑み込まれる。
画面全体に大きく表されるのが「神」の中の「神」。ギリシア神話で言うゼウスの姿だろう。