ムンクの「叫び」は5点あるそうで、その内の最も後年の1点を調べてみた。
エドヴァルド・ムンク 「叫び」(テンペラ画) 1910年 オスロ・ムンク美術館
友人2人と一緒に道を歩いていたムンクは、ノルウェーのフィヨルドの夕焼けの空に血の色を見つけ、「・・・・私はそこに立ち尽くしたまま不安に震え、戦っていた。そして私は、自然を貫く果てしない叫びを聴いた。」(Wikipedia ムンクの日記より)
外から聞こえてくる恐ろしい叫び声を聞こえないように耳を塞いでいるらしい。
作品全体は蛇の寄せ集め画である。人物の顔から体から、欄干・遠景・空も全て蛇がのたくって形作っている。
人物の顔部分。単純化した筆線で描かれているが、ところどころ、例えば両手に蛇の眼が付いている。これは手ではなく、二匹の蛇が人間を左右から挟んで噛みついているのだろう。
右眼を拡大すると、意外にも精緻な蛇画像が浮かび上がってきて驚く。眉毛は三匹くらいの黒蛇が連結して形作っている。白い点が蛇の眼である。人物の見開かれた眼は肌色の蛇が呑みあって連結して円形になって作っている。円形の中心には別の蛇の正面顔が見える。
一見乱暴な筆致で一筆で描いたような描き方だが、蛇の頭の形や眼等が割とリアルである。他の写実的な描き方の画家と大して変わらない。筆でもってこんな風に描けるものではない。人間の知らない蛇画像ソフトを用いた蛇神工房の作品である。
この人物自身が蛇で構成されたレプティリアンであるが、蛇に喰われる人間をも表している。頭の上の蛇、ほほを伝って這う蛇、耳を塞ぐ手のふりをした蛇が人間に喰いついている。口の中からも白っぽいのが顔を出している。たくさんの蛇に噛みつかれた悪夢のような光景である。
口の中にいる蛇の眼が見える。上方を向いた横顔である。
手のふりをした肌色の蛇もまた服のふりをした紺色の蛇に呑まれている。
この人物の体は下方から登ってきた大蛇に喰われている真っ最中である。下に流れる鮮血の色が生々しい。この人物とこれを喰っている大蛇を下から口を開けて喰い付くさらに大きな蛇が、半透明に白っぽく描かれている。
空には横に流れる巨大蛇が何匹も描かれているが、同時に超巨大蛇の正面顔にもなっている。画面最上部の左右にその蛇の眼がある。(・・・・蛇神はいつでも人間を観ている。)最上部左右の眼の下にも巨大蛇神の眼が並んでいる。目を凝らしてよく見ると左辺・右辺にそれが並んでいる。お供え餅のように上下に並んだ蛇神の正面顔は他のどの時代の絵画作品にも共通した表現である。
奥の二人の人物を見ると、これも蛇どもが目指して集まってきている様子が見える。道や欄干を手前の人物中心にみると、手前の人物に蛇が向かってくるように見え、奥の二人を見ると同じ線が奥の二人を目指す蛇に見える。
手前から、横から、後ろから、空から大小さまざまな蛇が二人に喰い付こうとしている。
向かって左の男は下から赤い大蛇に喰い付かれている。三匹はいるだろう。頭にも首にも青い蛇が巻き付いて人間の部分はまだ残っているのだろうか。
右の男は、紺色の大蛇に下から喰い付かれほとんど体全体が飲み込まれている。人間の顔ももう見えない。
この男の頭には遠目にはシルクハットがあると見えたが、拡大図を見ると違う。ヤギの角を持った悪魔そのものの姿に見える。
こちらは17年前に描かれた油絵作品。オスロ国立美術館蔵。もっとも有名なムンクの「叫び」はこちらの方。ただ今回見たムンク美術館の方が人喰いのコンセプトがはっきりと表されていたのでそれにした(高画質画像も手に入ったので)。
ムンクは母や姉の死を目の当たりに見、その死の恐怖を絵に表した・・・という事もあるだろうが、人間の力ではとてもかなわない強力な巨大蛇に喰われる恐怖を視覚化して人間に見せている。あるいは実際に巨大な蛇に喰われる人間の姿を見、その叫び声を聞いたのかもしれない。