ゴヤの作品と言えば、「裸のマハ」・「巨人」・「我が子を喰らうサトゥルヌス」その他の宮廷人の肖像画・黒い絵等、多岐にわたっている。そんな中からWikipediaで大きく扱われているこの絵を調べてみた。
フランシスコ・デ・ゴヤ 「マドリード 1808年5月3日」 1841年 プラド美術館
ゴヤ69歳の時の作品である。スペイン独立戦争時、フランス軍によって市民が逆殺された事件に憤慨して描かれたと言う。小山を背にして市民が撃ち殺される様子が描かれている。遠くに宮殿が見える。
一番目立つこの男は両手を上に挙げて無実を訴えるかのようだが、その手の平にイエス・キリストのような聖痕が見える。殉教者の証らしい。
銃を向けられた他の人々は、驚きと恐怖の表情を浮かべている。
皆唇が白いのは血の気が失せているからだろうが、白い物を口に挟んでいるようにも見える。
兵の銃の向こう側で事態を見る人々。罪を着せられなかった市民か。目を覆い、口に手を当てて恐怖を表している。5月初めの夜はスペインでも寒いのだろうか。何だか寒そうである。
ただよく見るとこんな風にも見える。
小さな人間を口に入れて喰っている巨人族たち。左端の人など、口の周りを血で汚しながら喰っている。手前の二人も口から肉を長く垂らして喰っている。
フランス兵は誰一人として市民の方を見ていない。罪の意識があり、命令だから仕方なく銃殺をしている感じが出ている。
官給品の制服や背中に背負った毛布が、一人一人違う色なのはどうしてだろう。特に白い毛布などこの当時あったのか。行軍中でもないのに、完全武装なのはなぜか。
顔が皆おかしな表現で形が取れてない。ゴヤはこんなにデッサン力が無かったのか。それとも画面全体の為にわざと顔をこんな形に変形させたのか。主題を強調する為にここはあえて下手に描いたのか。
兵隊の背負っている毛布は実は手足の千切れた人間の胴体ではないか。もしくは切られて無くとも手足を束ねられて縄で縛られた裸の人間か。この荷物の下を見ると、赤黒い血のシミが見えるのでやはり切られているのか。
行燈の後ろにいる男は、火を灯しているのではなく、大きな黒い蛇に丸呑みされている。
兵士の足元には人間が無数に横たわっている。ここは生贄の祭壇であるらしい。
全体図。少なくとも三匹の巨大な爬虫類が人間を喰いに来ている。宮殿の方から這って来て兵隊を全て丸呑みしている奴と、それをさらに大きく呑み込もうと右上の空から来ている奴、そして左方から地を這って来て横顔を見せている奴。こいつは口を開けて虐殺される市民を喰っている。人を殺す人、殺される人、それら人間の営み全ては最終的に「神」と呼ばれるこの巨大な爬虫類たちに喰われる事で終わる。人間たちはそれに気が付かないまま生まれて生きて死ぬ。