名画の中の人喰い蛇

美術品が教えてくれる命の意味を農作業しながら考える。

ティントレット 「スザンナの水浴」 人間を喰う巨人族

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ティントレット 「スザンナの水浴」 1555年~56年 ウィーン美術史美術館

ルネサンス期の絵は形がはっきりして良い。モネのようなボヤッとして曖昧な表現が少ない。今日はミケランジェロやティティアーノの次の画家ティントレットの作品を観る。

画題は旧約聖書から取られている。美貌の人妻スザンナが水浴している所を、好色な長老二人が彼女をものにしようと生垣の端から覗き見している場面である。

装飾品を傍らに置き鏡に映るわが身に見とれているふくよかな裕福そうな女は右足を布で拭いている。左の長老は地べたに這いつくばってそれを覗いている。

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スザンナの全身。頭部に比して身体が少し大きすぎる。手が長すぎる。右足の足首とすねの線が一直線で繋がらず、ずれている。髪の毛が蛇のようだ。

時代によって美の基準は違ってくるのだろうが、こんな肉襦袢を着たような女が当時好まれていたのだろうか。いやそうでは無く、体の輪郭に沿って蛇が張り付いているのである。頭部・手先(肘から先)・足首は切断されている。それ以外の身体の部分は彼女本来の物ではなく、肌色の蛇が構成している。乳房が有るのか無いのかはっきりとしない。特に左側の乳房は腕でつぶされているがこんな風にはならないと思う。

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足の付け根に沿って蛇が這っているのが薄く見えるが、何故かあるべき所に男性器らしき物が見える。眼も見えるから蛇の顔が股間から飛び出しているのかもしれないが、乳房の無さと考え合わせてこの人は女では無いらしい。

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スザンナの表情。冷たい眼をしている。口の右端から何か赤っぽい小さな蛇のような物が飛び出ている。何かを喰っているのか、あるいは血を噴き出させているのかもしれない。

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左手前の長老、生垣の奥の長老、共に裸のスザンナを見ていない。うつむいて何かに耐えているような表情である。人妻をたぶらかして欲望を果たし、彼女を罪に陥れようとする人間には見えない。

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左下の長老の左手の位置がおかしい。この体勢だと左手上腕がものすごく長い事になる。この人の手先も切断されていてそこに置かれていると思える。実際肘と手首の中間くらいの所に赤い切断面らしき部分がある。

この長老の身体も蛇で形作られているようだが、周りに小さな人間たちが無数に描かれていて、この長老も生贄の肉の一つである事が表されている。赤い衣の中、生垣の中には大小さまざまな人間が隠れている。これは蛇に呑み込まれた人間たちを示唆しているのだろう。

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画面の下半分。生垣の中以外でも、池の中、その囲いの辺り、スザンナが足を拭う布の中にも小さな人間が隠されていた。彼女が右手で掴んでいるのは布の端ではなく、小さな人間である。すなわち巨人族が人間を集めて喰っている場面が描かれている。

生垣に立掛けられた鏡に映っているのは大きな男性器である。鏡の外、下には睾丸とも見える部分がある。スザンナはこれを見つめていた。直立した男性器は禿げた爺さんの物とも思えない、若々しい立派なものである。その位置関係も大きさも合わない。するとこの男性器は何を意味しているのか。

・・・・蛇神は人間を創る時の試作品として巨人族を創ったがそれは男女の別が無く繁殖能力が無く一代限りであった。遺伝子を次世代に残す事が出来ずに巨人族生殖器に憧れていた。この憧れをこのスザンナは表している・・・・と考えるのだがどうだろうか。(それともこの絵を見る人間たちに対する侮蔑の意味を込めているのか。)

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画面上半分。生垣や木の幹の中に比較的大きな人間がいる。遠くの地面にも人間が横たわっている。細い樹々は空から降りて来た蛇たちである。

遠景の樹々の合間の空に人間の尻が幾つも見える。これはもしかしたら「脱糞図」かもしれない。印象派の時代よりもずいぶん前からその表現があったのかもしれない。確かに尻の割れ目から細い蛇やら、鹿やらが出て来ているようにも見えるがこれはどうもはっきりとはしない。

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これが元絵。暗い部分も明るくしてある。

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そしてこれが画面全体に渡って存在する蛇神たち。各色で輪郭線と眼を指摘した。スザンナも長老も小さな人間たちも全てを呑み込んでいる。

結局この世は喰い・喰われの捕食関係でしかないと奴らは繰り返し言っている。人間には生まれた時からの教育で、自分たちが食物連鎖の頂点にいると思い込ませている。知らせないほうが良いのだろうと思っているらしい。だが気付いてしまった人間がここにいる。奴らが人間には分からないだろうと芸術作品の中に隠し込んだヒントを見抜いてしまった者がいる。奴らは人間を馬鹿にしているから(または嘘が付けないのか)真実を必ず画面のどこかに潜ませている。